姥神大神宮渡御祭の熱い夜密着記
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370年を超える歴史を誇る北海道最古の祭り、江差町の「姥神大神宮渡御祭」。ニシンの豊漁に感謝する気持ちを込めて行ったのが起源とされ、神輿(みこし)に供奉する13台の山車(やま)が、優雅な祇園囃子の調べにのって町を練り歩く様子は、豪華絢爛そのものです。
毎年8月9、10、11日の3日間にわたって行われるこの祭りには、人口1万人ほどの江差の町が、観光客や帰省客なども含めた5~6万人で賑わうとか。
今回は、この山車の1つ「義公山」にご縁があって、山車を引かせてもらうことができました。2011年8月10日、いにしえ街道などを巡る「下町巡幸」を一緒に体験した5時間、熱気あふれる夜をレポートします。
◆「けっこうなお祭りです」とやってくるお客さん。ご馳走でおもてなし。
函館から車で1時間半ほどの距離にある江差町。この祭りを楽しみに、ひょいと出かける人も多いようです。
祭りのあいだは、家々にご馳走が用意されます。「けっこうなお祭りです」と言いながら入ってくるお客さんが入れ替わり立ち替わり。
久しぶりに会う友人、知人、知人の知人......誰でも大歓迎で、料理や飲み物がふるまわれ、
遠くに行っている仲間が祭りに帰ってくる、人が集まってくる、その喜びの気持ちが町じゅうにあふれています。
私たちも、お世話になる義公山の関係者といっしょに、あるお宅へ。すっかりご馳走になりました。
そして、そろいの半纏を着せてもらい、いざ出陣。
義公山の「義公」とは水戸光圀(水戸黄門)のことで、徳川の三つ葉葵の紋がついています。
山車に据えられた人形は水戸黄門の旅姿、「助さん」「格さん」役の子どもが、ちょこんと乗っているのが微笑ましい!(最初の写真)
◆山車は全部で13。個性的な人形と美しい水引幕が見もの
祭りの主役のひとつが、豪華絢爛な山車。トドマツの木を高く立てて神に見立てることを「ヤマを立てる」といい、江差ではこの山車を「やま」と呼びます。
町内会ごとに自慢の武者人形や歌舞伎人形などを据えるとともに、山車の四方を鮮やかな水引幕が彩るのも見もの。義公山では、青龍、朱雀、白虎、玄武の四神の美しい刺繍が見事でした。
この祭りでは、年代ごとにそれぞれが役割を果たしています。どの山車にも周りには小さい子どもが乗って、神妙にしていたり、はしゃいでいたり。小学生になると、山車の引き手から始まり、お囃子の太鼓、笛の演り手へ。中学生からは、上に乗って熊手のようなもので電線をさばく「線取り」。そして、若者衆は山車の安全巡幸に気を配る「舵取り」。すべてを束ねるのは「頭取」。いい意味での上下関係がきちんと受け継がれているのが印象的です。
夜に見る山車は、煌々と輝くようで美しさもひときわ(画像をクリックすると、大きな写真が見られます)。
(左)聖武山(ヤマトタケルノミコト)の動作人形 (中)正宗山(伊達政宗) (右)源氏山(武蔵坊弁慶)
(左)神功山(神功皇后)=北海道有形民俗文化財 (中)蛭子山(えびす様)
(右)松寶丸=北海道有形民俗文化財。唯一の船山。人形の代わりに小さな男の子が「船頭」として船首に座る
◆祝い唄の「切り声」に海の男の心意気を聞く
巡幸する山車は、ところどころで停まって、家の方に向きを変えます。
家の中に招き入れられると、「切り声」が始まりました。これは、商運や家内安全を祈る祝い唄。
切り声とは、ニシン漁で歌われる網起こし音頭が原型だそうで、海の男たちの心意気を伝える力強い歌声が特徴。
浜なまりの朗々とした歌を聴いていると、何だか胸が熱くなってきます。
◆静かなお囃子が、動の囃し歌へ。祭りは一気にヒートアップ
さて、折り返し地点を過ぎ、笛と太鼓と鐘による優雅な祇園囃子に、引き手たちの囃し歌が加わるようになります。
「一銭ケレ、一銭ケレ、一銭もらって何するの、釣り竿買って針買って~」、
山車の上と下の若者たちが歌って踊って一体となり、すごい盛り上がり。祭りのボルテージが一気に上がります。
◆クライマックスは、姥神大神宮前の全山車競演と神輿の宿入れ
巡幸の最後は、全山車が姥神大神宮前広場に集結。この日は雨がパラついて、透明な覆いがかけられていましたが、煌びやかさは想像以上。光と音の渦に身を任せていると、この祭りに夢中な人が多いのにもうなずけます。
そして、いよいよ神社に戻った神輿の「宿入之儀(しゅくいれのぎ)」。白装束の若者がたいまつの炎で参道を清めるように先導し、3基の神輿が1基ずつ拝殿に入りますが、これが一度で納まらず、それぞれ7度、5度、3度行き来して納めるのがお約束。何度も繰り返すその迫力にも、圧倒されました。
23時30分。宿入れも無事済んで各山車は解散。それぞれの町内へと帰途につき、長い下町巡幸の夜はお開きとなりました。
2011/8/17公開