旧カール・レイモン居宅
二十間坂を上り、東本願寺函館別院の手前を右に曲がると、寺の正門の向側にポツンと控えめに佇んでいる建物があります。その隣にそれとわかる看板を構え、蔦で覆われたショップがなければ、見過ごしてしまいそうなほどのさりげない建物。それが、函館で63年にもわたり、自国の伝統の味を頑なに市民に提供し続けた男が住んでいた家です。その男とは、カール・ワイデル・レイモン。「胃袋の宣教師」と自らを呼んだドイツ人です。
しかし、びっくりするくらい、この建物についての文献はありません。わかっているのは、1932(昭和7)年にロシア人毛皮商だったD.N.シュウエツが住居として建てた家で、当時の建築費が5000円であったこと。そのシュウエツ氏が亡くなった後、1938(昭和13)年にレイモン氏が5万円で購入したこと。モルタル塗りの外壁をもつ木造2階建てであること。何年か前までは、蔦が全面に這う家であったこと。この自宅の隣にハム・ソーセージ工場を造り、その跡地が現在のレイモンハウスというショップになっていること。これくらいしかありません。
ただ、この建物をレイモン氏が購入した経緯からは、太平洋戦争前夜の気配を感じます。1933(昭和8)年、氏の構想である「畜産からハム・ソーセージの製造まで全てを北海道で行う」というビジョン実現のために、大野町(当時)に工場を建設しました。しかし、その後満洲各地に畜産試験場を開設し、戻ってきた1938(昭和13)年に、大野町の工場を強制買収という形で手放さなければなりませんでした。その代金が5万円だったのです。その5万円でこの家を買ったわけです。
そんな経緯で手に入れた家ですが、なぜだかレイモン氏が自らの希望で、このデザインで建てさせたような気になってしまうのは私だけでしょうか。それほど氏の生き方と、この何とも言えないシンプルな雰囲気がぴったりとマッチしています。建物は、窓を小さく、玄関にもガラスは最小限の使用に止めるなど、寒冷地向けのレイアウトをとっているところは、やはりロシア人ならではといえるのでしょうか。確かに、氏の故郷であるボヘミア地方の建物とは趣が違います。それでも、この建物にレイモン氏の信念を重ねて見てしまうのはどうしてでしょうか。
生前、レイモン氏が語った言葉があります。「人はおいしい食べ物が豊富にあり、住み心地のいい家を持っておりさえすれば、のんきに暮らすことができます。これは国家だって同じことですよ」
参考資料/はこだて人物誌、函館日ロ交流史研究会HP、函館カールレイモンHP
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詳細情報
住所 | 函館市元町30 |
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アクセス情報 |
市電 「十字街」電停 下車 徒歩8分 |
問合せ先 | 函館市観光案内所 |
電話番号 | 0138-23-5440 |
利用時間 |
外観のみ見学可 |
駐車場 |
周辺に有料駐車場あり |
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