ホテルに、カフェに、函館のリノベーション建造物の魅力
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函館のベイエリアに、個性的な2つの建物をリノベーション(再生)したホテルがあります。昭和初期に建てられた重厚なコンクリート造りの銀行と、隣接する赤レンガ造りの美術館という、地元で愛されてきた街のランドマークが、新たな魅力を持って2017年に蘇りました。函館は古建築を活用したカフェや博物館などの宝庫。歴史ある空間でとっておきの時間をすごすのは旅のお楽しみです。函館のリノベーション建造物の見どころをご案内します。
(写真は「HakoBA 函館 -THE SHARE HOTELS-」)
◆歴史ある建物のリノベーション、草分けの3施設
歴史ある建物をそのまま保存するのではなく、新しい価値を付け加えて活用する「リノベーション」。函館では、全国的にも早い時期から、多くの建物が飲食店や商業施設、公共施設として、新しい命を吹き込まれてきました。さきがけといえる3つの建物をご紹介します。
1917(大正6)年建築の郵便局⇒1976(昭和51)年開業のカフェ「カリフォルニアベイビー」。レトロモダンな外観デザインがハイカラな函館の街並みによく似合う人気店です。
1911(明治44)年建築の函館郵便局⇒1983(昭和58)年開業のショッピングモール「はこだて明治館」(旧名称・ユニオンスクエア)。ツタの覆う赤レンガの建物は、四季それぞれに目を楽しませてくれます。
1909(明治42)年築建築の金森倉庫⇒1988(昭和63)年から開業のショッピングモール、ビアホールなどの「金森赤レンガ倉庫」(旧名称・函館ヒストリープラザ)。ベイエリアのにぎわいの中心にあるシンボル的存在です。
◆函館山のふもとエリアはリノベーション建造物の宝庫
上の3つのほかにも、函館の西部地区(函館山のふもとにある観光の中心エリア)には、明治、大正、昭和初期に建てられた個性的な建物をさまざまに活用した施設があり、独特の街並みを作り上げています。ほんの一部ですが、代表例をご紹介します。
明治末期建設の海産商・近藤商店の店舗住宅⇒1992(平成4)年開業の「茶房 旧茶屋亭」。1階は和風、2階は洋風という函館らしい和洋折衷建物が、モダンなカフェに。
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1934(昭和9)年建築の食料品卸・梅津商店の店舗住宅⇒2014(平成26)年開業のギャラリーショップ「はこだて工芸舎」。大正から昭和前期にかけての歓楽街「銀座通り」の入口にあり、重量感のあるコンクリートビルが建ち並ぶ街並みに溶け込んでいます。
1909(明治42)年建築の北海道庁函館支庁庁舎⇒1982(昭和57)年に修復整備、現在は「Jolly Jellyfish 元町公園店」として利活用されています。元町公園に建つ木造洋風建築で、ギリシャ風デザインが特徴。
1880(明治13)年建築の金森洋物店⇒1969(昭和44)年開館の「市立函館博物館 郷土資料館」。レンガ造りの漆喰仕上げで、度重なる大火の難も免れてきました。1階が和風、2階が洋風の和洋折衷建物、アーチなどのデザインがハイカラ文化を象徴しています。
1923(大正12)年建築の丸井今井呉服店(百貨店)函館支店⇒2007(平成19)年に開所の「函館市地域交流まちづくりセンター」。おしゃれなデパートの建物が、観光案内や市民活動の拠点として活躍。
◆2017年の注目リノベーション、ベイエリアのホテル「HakoBA 函館」
昭和初期に建てられた銀行と、隣接する美術館。しばらく使われていなかった2つの建物が合わせてリノベーションされて、ホテルが誕生しました。街の記憶をとどめる歴史的な建物のストーリーと、それを生かした新しい建物の見どころをご紹介します。
【昭和7年建築、安田銀行函館支店~のちのホテルニューハコダテ】
角に丸みをもたせた美しいフォルム、どっしりとしたコンクリート造りが印象的な建物。市電通りと八幡坂の交差点に建ち、函館の街の移り変わりを見守ってきました。1932年(昭和7)年に「安田銀行函館支店」として建てられ、戦後に富士銀行と名を変え、閉店後は1968(昭和43)年に改修されて「ホテルニューハコダテ」に。2010(平成22)年に営業終了。
縦に長いアーチ型の窓、円形のつけ柱、軒まわりの繊細な装飾など、随所に優雅なデザインが見られます。
このあたりは、大正時代から昭和初期にかけて銀行がいくつも建設され、函館の金融街であったところ。多くがリノベーションされて、今もさまざまな施設として活躍しています。
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今回のリノベーション前に撮影した内部、1階の様子。銀行時代にはワンフロアの大空間でしたが、旧ホテル時代に2階の床が設けられ、中央の階段部分のみ吹き抜けに。このまわりを取り囲むように、個室が配置されていました。リノベーション前にいったん個室の壁が取り払われ、銀行時代の姿が蘇ったようです。
旧ホテルの2階部分。銀行時代の立派な装飾梁が目を引きます。旧ホテル時代には、この梁の下にフラットな天井が張られて隠れた状態でした。中央の階段まわりの吹き抜けには大きな天窓があり、充分な光が取り込まれています。
1階と2階をつなぐ階段。大空間だった銀行時代、フロアを区切った旧ホテル時代の両方の姿が想像できます。さて、この建物が新しいホテルにどのように生かされたのでしょうか。
(以上3点、撮影/青山弘志)
【2017年再生、HakoBA函館「BANK棟」】
旧銀行の建物は新ホテルの「BANK棟」としてお目見え。白い壁の美しさを生かしたシンプルな内装が印象的です。2階のブックラウンジは、お気に入りの本を選んでゆったりとすごせる空間に。じつはこのスペース、ひとつ前の写真と同じ方向から見ていますが、吹き抜けの階段を上がってきた後ろにあって、奥の3つの窓は銀行時代のものがそのまま生かされています。また、天井を縦に走る化粧梁も銀行時代のものが再び姿を現わしました。
吹き抜けの階段も、旧ホテル時代を踏襲。そして、なんと旧「ホテルニューハコダテ」の外壁にあった袖看板を、モニュメントとして階段脇に設置しています。
旧ホテルで使われていた家具なども、リペアして活用。
ゲストルームは、旧銀行時代の窓や柱や梁や織り上げ天井などを生かして、部屋ごとに異なるレイアウトになっているのがユニーク。このツインルームは、ベッドの頭上の飾り梁がポイント。天井の高さも魅力です。
部屋の窓や、シンプルながら美しい飾りのカーテンボックスも、銀行時代のものが生かされていました。
【1986年建築、西波止場美術館】
1986(昭和61)年にベイエリアに建てられ、2003年にテディベアを展示する「はこだて西波止場美術館」として活用された建物(2011年に閉館)。曲面を生かした優しいフォルムの赤レンガ造り、隣には前出のカリフォルニアベイビーという好立地です。
赤レンガを覆うツタの葉っぱが秋には紅葉し、閉館後も街に鮮やかな色どりを添えていました。
改装工事前の館内の様子。広いフロアにさまざまなテディベアが展示されていました。
【2017年再生、HakoBA函館「DOCK棟」】
旧美術館の建物は、「DOCK棟」として再生。クラシックな雰囲気のBANK棟に対して、モダンなカジュアルさが特徴。温かみのある色の2段ベッドは外観の赤レンガを連想させ、シンプルな部屋に色を加えます。
美術館時代のらせん階段も生かされて、自由にくつろげる空間(プレイルーム)のアクセントに。隠れ家みたいなロフトで、遊び心満点です。
◆リノベーションホテルで、街の歴史や文化、海や山の自然を感じる
函館の個性豊かなリノベーション建造物のひとつに加わった「HakoBA函館」。新規開業当時築85年の旧銀行を中心に、建物の歴史、街の歴史をホテルで味わう楽しみが増えました。ちなみに、フロントのアートは函館山をモチーフにしたもの。そのほか、館内には函館を感じさせる展示があちこちに配されています。
BANK棟ペントハウスのプライベートテラスからの眺め。函館山と八幡坂、教会や歴史的
建造物、眼下を走る市電など、函館らしい風景の中心にある絶好のロケーションです。
反対側には港の風景。DOCK棟のシェアキッチン外のデッキからも、この景色が望めます。港の花火大会の打ち上げ場所はすぐ目の前です。
函館にあるリノベーション建造物を訪ねて、古建築とともに歴史や文化が今も生きつづけ、街のにぎわいにつながっているのを体感してみませんか。きっと函館の街との距離がぐっと近づいて、思い出に刻まれる旅になることと思います。
一部写真提供/株式会社リビタ
2017/5/25公開
HakoBA 函館 -THE SHARE HOTELS-(ハコバ ハコダテ ザ シェア ホテルズ)
2017年5月オープン
函館市末広町23‐9 0138-27-5858
(市電「末広町」電停から徒歩3分。函館駅から車で10分または徒歩23分)
◆BANK棟
ダブル、ツイン(定員2名×19室)、メゾネット(定員4名×1室)
◆DOCK棟
・エコノミールームズ(個室タイプ) トイレ、シャワールーム共用
エコノミーグループ(定員6名×2室)、エコノミークワッド(定員4名×4室)、エコノミーツイン(定員2名×7室)
◆シェアスペース
ブックラウンジ(BANK棟)、フロント・ロビー、ルーフトップキッチン、プレイルーム、レストラン(DOCK棟)